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東京地方裁判所 平成7年(ワ)1804号 判決

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告らは、原告甲に対し、別紙物件目録一1ないし3記載の各土地(以下、これらを「本件甲土地」という。)につき、別紙登記目録一記載の仮登記(以下「本件甲仮登記」という。)に基づく本登記手続の承諾をせよ。

二  被告らは、原告乙に対し、別紙物件目録二記載の土地(以下「本件乙土地」という。)につき、別紙登記目録二記載の仮登記(以下「本件乙仮登記」という。)に基づく本登記手続の承諾をせよ。

第二  事案の概要

本件は、仮登記を経由した譲渡担保権者である原告らが、債務者の破産管財人に対して仮登記に基づく本登記手続を求める別訴を提起し、破産管財人から右本登記手続を受ける旨の訴訟上の和解を成立させた後に、仮登記に後れて滞納処分による差押えないし参加差押えをしその旨の登記をした被告らに対して、右本登記手続の承諾を求めている事案である。

一  基礎となる事実(証拠を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

1(一) 株式会社エー・ブィ・エス(以下「エー・ブィ・エス」という。)は、平成二年七月七日、株式会社桜友社(以下「桜友社」という。)から本件甲土地外一筆を代金九六三万〇七八〇円で買い受け、内金八一三万〇七八〇円の支払のため、桜友社に対し、満期は同年八月から平成五年七月まで各二八日、金額は各二二万五八五五円とする約束手形三六通(以下「本件甲手形」という。)を振り出し、平成二年一二月一八日、所有権移転登記を経由した。

(二) 原告甲は、平成二年八月八日、桜友社から本件甲手形を引渡の方法で取得するとともに、エー・ブィ・エスとの間で、右手形金合計八一三万〇七九八〇円を、各手形金相当額を各満期において三六回にわたり分割弁済し、エー・ブィ・エスが右割賦金を一回でも遅滞したときは当然に期限の利益を失い、残債務を一時に完済し、期限後は年三割の割合による遅延損害金を支払うとの約定で消費貸借の目的とする旨合意した(以下「本件甲準消費貸借」という。)。

(三) 原告甲は、平成三年二月七日、本件甲土地につき、「権利者の請求又は平成七年八月八日の到来」を条件とする平成二年八月八日譲渡担保を原因として、条件付所有権移転仮登記である本件甲仮登記を経由した。

(四) 本件甲土地につき、エー・ブィ・エスに対する滞納処分のため、被告国が平成四年八月三日に差押えをして同年八月四日その登記を、被告埼玉県が同年一〇月九日に参加差押えをして同年一〇月一二日その登記をそれぞれ経由した。

2(一) エー・ブィ・エスは、平成元年六月五日、ウェスタン商事株式会社(以下「ウェスタン商事」という。)から本件乙土地外一筆を代金四三六万一三二〇円で買い受け、内金三三六万一三二〇円の支払のため、ウェスタン商事に対し、満期は平成二年八月二八日、金額は右同額とする約束手形一通(以下「本件乙手形」という。)を振り出し、平成元年七月一七日、所有権移転登記を経由した。

(二) 原告乙は、平成元年六月一四日、ウェスタン商事から本件乙手形を引渡の方法で取得するとともに、エー・ブィ・エスとの間で、右手形金三三六万一三二〇円を、同年七月から平成三年一二月まで毎月二八日限り各一一万二〇四四円宛三〇回にわたり分割弁済し、期限後の損害金は年三割との約定で消費貸借の目的とする旨合意した(以下「本件乙準消費貸借」という。)。

(三) 原告乙は、右同日、本件乙土地につき、同年六月一四日譲渡担保を原因として、所有権移転仮登記である本件乙仮登記を経由した。

(四) 本件乙土地につき、エー・ブィ・エスに対する滞納処分のため、被告国が平成三年八月一九日に差押えをして同年八月二一日その登記を、平成四年一〇月二日に参加差押えをして同年一〇月五日その登記を、被告埼玉県が同年一〇月九日に参加差押えをして同年一〇月一二日その登記をそれぞれ経由した。

3 エー・ブィ・エスは、本件乙準消費貸借債務は平成三年一二月二八日に完済し、本件甲準消費貸借債務については、平成四年七月二八日までの割賦金は支払ったが、同年八月二八日の割賦金の支払を遅滞した上、同年九月二九日、当庁において破産宣告を受けるに至り(当庁平成四年(フ)第二五七四号事件、以下「別件破産事件」という。)、弁護士島田邦雄がその破産管財人に選任された。

4 原告甲は、破産者エー・ブィ・エス破産管財人島田邦雄(以下、単に「破産管財人」という。)に対し、本件甲仮登記に基づく本登記手続を求め、かつ、原告乙に代位して本件乙仮登記に基づく本登記手続を求める訴えを提起し(当庁平成五年(ワ)第四五六三号土地所有権移転仮登記の本登記等請求事件、以下「別訴」という。)、平成五年四月七日、破産管財人に対して訴状が送達されたところ、平成六年四月二七日、原告甲と破産管財人との間で、次のとおりの訴訟上の和解(以下「別件和解」という。)が成立した。

(一) 破産管財人は、原告甲に対し、本件甲土地につき、本件甲仮登記に基づく本登記手続を、原告乙に対し、本件乙土地につき、本件乙仮登記に基づく本登記手続をそれぞれする(第一項)。

(二) 破産管財人は、右登記手続に必要な書類を本和解成立と同時に原告甲に交付するものとし、登記手続費用は原告甲の負担とする(第二項)。

(三) 原告甲は、本和解成立と同時に破産管財人に対し五万円を支払う(第三項)。

(四) 破産管財人は、別件破産事件において、原告甲が破産者エー・ブィ・エスに対し本件甲準消費貸借に基づく元金債権二七一万〇二六〇円及びこれに対する平成四年八月二九日から完済まで年三割の割合による遅延損害金の債権を有すること、並びに原告甲が有する右債権は第一項によって本登記される各譲渡担保契約に基づく所有権の被担保債権であることをそれぞれ確認する(第四項)。

(五) 原告甲は、破産管財人に対し、前項において確認した債権は第一項の別除権の行使によって弁済を受けられるものであることを認め、破産債権者としての権利を行使しない(第五項)。

(六) 原告甲は破産管財人に対するその余の請求をすべて放棄する(第六項)。

(七) 原告甲と破産管財人の間には、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務関係のないことを確認する(第七項)。

二  原告らの主張

1 原告甲は、平成二年八月八日、エー・ブィ・エスとの間で、本件甲手形の手形金合計八一三万〇七八〇円の分割弁済に関する本件甲準消費貸借債務を担保するため、原告甲から請求を受けたとき又は平成七年八月八日が到来したときを条件として、右条件の一つでも成就したときは、エー・ブィ・エスは本件甲土地を原告甲に譲渡する旨の停止条件付譲渡担保契約(以下「本件甲契約」という。)を締結し、平成三年二月七日、本件甲土地につき、右条件付の平成二年八月八日譲渡担保を原因として本件甲仮登記(条件付所有権移転仮登記)を経由した。

2(一) 原告乙は、平成元年六月一四日、エー・ブィ・エスとの間で、本件乙手形の手形金三三六万一三二〇円の分割弁済に関する本件乙準消費貸借を担保するため、エー・ブィ・エスは本件乙土地を原告乙に譲渡する旨の譲渡担保契約(以下「本件乙<1>契約」という。)を締結し、本登記手続を留保した場合には、原告乙から請求を受け次第直ちに本登記手続を行う旨合意し、同年七月一七日、本件乙土地につき、同年六月一四日譲渡担保を原因として本件乙仮登記(所有権移転仮登記)を経由した。

(二) エー・ブィ・エスは、平成二年八月八日、原告乙との間で、本件甲準消費貸借債務を担保するため、本件乙土地を重ねて原告乙に譲渡する旨の譲渡担保契約(以下「本件乙<2>契約」という。)を締結し、本件乙仮登記を流用して、本件乙<1>契約の被担保債務には本件甲準消費貸借債務も含まれることとする旨合意した。

(三) 右(二)と選択的に、原告乙は、右同日、原告甲から、本件甲準消費貸借債務を取立目的で譲り受けた上、エー・ブィ・エスとの間で、右債権を担保する目的で、本件乙土地をエー・ブィ・エスから譲り受ける旨の譲渡担保契約(以下「本件乙<3>契約」という。)を締結し、前同様に本件乙仮登記を流用する旨合意した。

3 原告甲は、平成五年四月七日、破産管財人に対し、別訴の訴状の送達により、本件甲土地につき、本件甲契約に基づく条件成就に伴う譲渡担保権の設定を請求するとともに、原告乙に代位して、本件乙土地につき、本件乙<1>ないし<3>各契約又は土地所有権に基づく本登記手続の請求をした。

4 よって、原告甲は、被告らに対し、本件甲土地につき、本件甲仮登記に基づく本登記手続の承諾を求め、原告乙は、被告らに対し、本件乙土地につき、本件乙仮登記に基づく本登記手続の承諾を求める。

三  被告らの主張

1 本件甲契約及び本件乙<1>契約は、以下のとおり、いずれも仮登記担保契約に関する法律(以下「仮登記担保法」という。)にいう仮登記担保契約の実質を有するから、国税徴収法五二条の二において準用する仮登記担保法一五条一項の類推適用により、原告らは、本件各仮登記に基づく本登記手続の請求をすることはできず、被告らに対して承諾請求をすることもできないというべきである。

(一) 譲渡担保契約を仮登記によって公示した場合には、その合意内容を問うまでもなく、仮登記担保法の規定を類推適用すべきである。不動産譲渡担保と仮登記担保は、ともに担保目的で設定されるものであっても、前者では契約時から実行時まで所有権移転の外形がとられ、第三者との関係においてこの点を考慮せざるを得ない点に差異があるが、その理由は、契約内容そのものではなく、所有権移転の登記がされていることにある。ところが、不動産譲渡担保が仮登記によって公示されている仮登記譲渡担保にあっては、このような問題を生じないから、仮登記担保と区別する理由はない。したがって、本件のように清算金の弁済前に強制換価手続が開始されたときは、譲渡担保権者は、自己の仮登記が登記上先順位であることを奇貨として、自己の固有の権利実行手続である本登記手続の請求をし、ひいて既存の競売手続を無に帰せしめて関係者に無用の損害を被らせることは許されず、仮登記担保法一三条に従い、既に開始された強制換価手続内で担保価値の実現を図ることとなる(最高裁昭和四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁参照)。

(二) 本件甲契約は、エー・ブィ・エスが、本件甲土地の代金の支払のために売主に振り出した本件甲手形の買取りを原告甲に依頼して、原告甲との間で、実質的なローン契約である本件甲準消費貸借を締結するとともに、これに基づく分割弁済の確保のため「権利者の請求又は平成七年八月八日(五年後)の到来」を条件として譲渡担保契約を締結したものであって、停止条件付譲渡担保契約ではあっても、その実質は、原告甲がエー・ブィ・エスに対して負担する金銭債権を担保する契約であり、右条件は債務者の債務不履行を条件とするものにほかならない。右契約の締結時において、本件甲土地の所有権は原告甲に移転しておらず、また、原告甲及びエー・ブィ・エスの間には、エー・ブィ・エスの債務不履行がない限り、右所有権を原告甲に移転させない旨の合意があったのである。右条件にいう「権利者の請求」は、譲渡担保権の設定及び本登記手続の請求ではなく、被担保債権の履行の請求と見るべきであり、「五年後の到来」も、分割弁済の最終期限が契約日から二年一一か月後であることに照らし、エー・ブィ・エスの債務不履行を前提にしていることは明らかである。

(三) 本件乙<1>契約は、その基礎とされた本件乙準消費貸借が既に完済されて消滅している以上、その効力を有しない。なお、念のため、右契約の内容を見ると、これによれば、本件乙土地の所有権は原告乙に移転するものの、原告乙が承知すれば、不動産登記法二条一項の仮登記又は停止条件付譲渡担保に係る仮登記ができる旨定められており、右契約及びエー・ブィ・エスへの売買を原因とする所有権移転登記が同日(平成元年六月一四日)付けで登記されていることからすれば、不動産登記法二条一項の仮登記ではなく、停止条件付譲渡担保に基づく同条二項の仮登記にほかならないから、本件甲契約と同様、仮登記担保法の適用があることになる。

2 仮に、本件乙仮登記の流用が第三者に対して有効であったとしても、本件乙<2>契約でいうように、本件乙土地に設定された本件乙仮登記によって担保される債権が本件甲契約に基づく債権であり、その権利者が原告乙であるとすれば、本件乙仮登記を本登記にするためには本件甲契約によらざるを得ないから、これについても仮登記担保法が類推適用されることになる。のみならず、登記の流用は現在の権利状態に一致している場合にのみ有効であるが、本件甲仮登記の原因である本件甲契約と本件乙仮登記の原因である本件乙<1>契約とでは、契約の当事者、契約の内容及び債権額が異なるから、原告ら主張のような登記の流用による本件乙仮登記の効力を認める余地はない。また、本件乙<3>契約において、原告甲が原告乙に対し本件甲準消費貸借上の債権を取立目的で譲渡したとしても、取立権の譲渡は、債権の帰属に変動を及ぼすものではないし、別件和解においては、原告甲が右債権を有することが確認されている。

四  原告らの反論

1 本件甲契約には仮登記担保法一五条一項の類推適用の余地はない。

(一) 本件甲契約において条件の一つとされている「権利者の請求」は、債権者の意思のみにかかる純粋随意条件であって、被担保債権の債務不履行もその一場合にすぎず、実質的には無条件にほかならない。本件甲契約に係る譲渡担保権は、始めから確定的に設定されたものに限りなく近いが、原告甲の請求によって確定的に設定された譲渡担保権について対抗要件を具備するために本登記手続の請求をしたものであり、将来における担保権の実行(原則的に処分清算、例外的に帰属清算)は別途行われることとなる。また、「五年後の到来」は、権利者の請求という随意条件を五年間行使しないと、被担保債権の消滅時効とは別に譲渡担保権設定請求権そのものが時効消滅(商法五二二条)するところから定型的に定めた始期にすぎず、被担保債権の弁済期やその不履行とは何ら関係がない。したがって、本件甲契約は、金銭債務の不履行を条件として債務者又は第三者に属する所有権の移転を生ずることを眼目とする仮登記担保の実質を有しない。

(二) 不動産に譲渡担保権を設定した場合には、当初から本登記を経由するのが原則であるが、登録免許税の負担等の関係から、とりあえずは順位保全の仮登記にとどめ、その代り、右仮登記に基づく本登記手続は債権者から請求あり次第いつでも無条件で履行するとの合意が当事者間で成立したときには、当事者が欲したとおりの法的保護を与えるべきである。自由経済社会では、抵当権などの典型担保権のほか、所有権移転登記がされた譲渡担保権、仮登記にとどめた譲渡担保権、仮登記担保権、登記留保(未登記)による担保など当事者の選択の幅ができるだけ広い方が望ましく、それが社会発展の原動力にもなる。

(三) 仮登記担保であるか仮登記譲渡担保であるかは、登記簿の記載上で明確であり、徴税機関は、滞納処分による差押えをするに当たり、国税徴収法二四条所定の手続をとれば足りるから(地方税法にも同趣旨の規定がある。)、仮登記担保法一五条一項の類推適用を認めなくとも、徴税機関を不当に混乱させることはない。一般債権者の場合には、譲渡担保財産に清算剰余金があると考えれば、これにつき物上代位するか差押えをすれば足りることである。

(四) 根仮登記譲渡担保権者の場合に、仮登記担保法一五条一項の類推適用を認めるとすれば、同法一四条の類推適用も免れないから、その者は、本登記手続の請求もできなければ、競売による配当金の請求もできず、全く無権利者になるという不当な結果を招く。

2 本件各土地は、強制換価をして現実には買手も付かないような時価一〇万円程度の土地であるから、その価額は原告らが右土地上に有している譲渡担保権の被担保債権の額をはるかに下回り、清算金等を生ずる余地はない。

五  本件の争点

1 本件甲契約に係る本件甲仮登記と国税徴収法五二条の二において準用される仮登記担保法一五条一項の類推適用の有無

2 本件乙<1>ないし<3>各契約に係る本件乙仮登記の効力

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件甲契約に係る本件甲仮登記と国税徴収法五二条の二において準用される仮登記担保法一五条一項の類推適用の有無)について

1 エー・ブィ・エスは、平成二年七月七日、本件甲土地を買い受け、同年一二月一八日に所有権移転登記を経由したところ、原告甲が、平成三年二月七日、右土地につき、「権利者の請求又は平成七年八月八日の到来」を条件とする平成二年八月八日譲渡担保を原因として、条件付所有権移転仮登記である本件甲仮登記を経由したこと、本件甲土地につき、エー・ブィ・エスに対する滞納処分のため、被告国が平成四年八月三日に差押えをして同年八月四日その登記を、被告埼玉県が同年一〇月九日に参加差押えをして同年一〇月一二日その登記をそれぞれ経由したことは前示のとおりである。

2 ところで、仮登記担保法一条は、金銭債務の不履行を条件として、債務者又は物上保証人に属する所有権その他の権利を債権者に移転することを目的としてされた契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるものを仮登記担保契約と定め、国税徴収法五二条の二において準用される仮登記担保法一五条一項によれば、担保仮登記がされている土地等につき滞納処分による強制換価手続が開始された場合において、その差押えが清算金の支払の債務の弁済前(清算金がないときは、清算期間の経過前)にされたものであるときは、担保仮登記の権利者は、その仮登記に基づく本登記の請求をすることができないこととされている。仮登記担保権利者とすれば、仮登記担保法一三条により、その仮登記の時点において抵当権設定の登記がされたものとみなされ、その限りで被担保債権の優先弁済権を主張して債権の満足を得る方法がある以上、自己の仮登記が登記上先順位であることを奇貨として、自己固有の権利実行手続に固執し、強制換価手続を排除して関係者に無用の損害を被らせることは、仮登記担保権の行使としての正当な法的利益を有するものとはいえないからである。

3 一方、不動産を目的とする譲渡担保契約においては、多くの場合、債権者が債務者又は物上保証人から当該不動産の所有権移転登記を受けるが、所有権の取得それ自体よりは、その金銭的価値に着目し、その価値の実現によって自己の債権の満足を得ることを目的とするものであって、被担保債権の債務不履行を契機として債権債務の清算がされるまでは、所有権はなお譲渡担保権設定者に残存ないし分属し、右清算によって初めて確定的に債権者に所有権が移転するという形式をとるのが通例である。したがって、担保権としての実質的な機能面では、仮登記担保法上の仮登記担保権に近似するところがあり、譲渡担保契約を原因として当該不動産につき仮登記を経由したにとどまるいわゆる仮登記譲渡担保にあっては、公示方法も仮登記担保契約の場合と異なるところはないから、債権者、債務者、担保設定者、右仮登記後の担保権者等の関係者間の公平な利害の調整を図るため、その性質上不適当なものを除き、仮登記担保法の規定を類推適用するのが相当である。

4 そこで、本件甲契約は、被告ら主張のように、仮登記担保法にいう仮登記担保契約の実質を有するものとして、本件甲契約に係る本件甲仮登記につき国税徴収法五二条の二において準用される仮登記担保法一五条一項の類推適用を受けるべきものか否かについて検討する。

(一) 原告甲は、前示のとおり、エー・ブィ・エスが、本件甲土地の代金の支払のために売主の桜友社に対して振り出した本件甲手形三六通金額合計八一三万〇七八〇円(満期は平成二年八月から平成五年七月まで各二八日、金額は各二二万五八五五円)を桜友社から引渡の方法で取得するとともに、エー・ブィ・エスとの間で、右手形金につき、各手形金相当額を各満期において三六回にわたり分割弁済し、エー・ブィ・エスが右割賦金の支払を一回でも遅滞したときは当然に期限の利益を失い、残債務を一時に完済し、期限後は年三割の割合による遅延損害金を支払うとの約定で本件甲準消費貸借を締結するとともに、これに基づく分割弁済の確保のため「権利者の請求又は平成七年八月八日(五年後)の到来」を条件とする停止条件付譲渡担保契約である本件甲契約を締結したものである。そして、《証拠略》によれば、本件甲契約に係る原告甲とエー・ブィ・エス間の「金銭消費貸借及び担保権設定等契約証書(兼)委任状」には、原告甲は、エー・ブィ・エスの異議なき承諾の下に、桜友社から本件甲土地外一筆の代金債権及び右支払のための割賦手形を買い取った上、エー・ブィ・エスとの間で、本件甲準消費貸借を締結したものであること、エー・ブィ・エスは、原告甲の請求又は五年後の到来を条件として右土地を原告甲に譲渡する旨の停止条件付譲渡担保契約を締結して、直ちにその旨の所有権移転仮登記手続をするものとし、右土地の所有権は、右条件のいずれか一方の成就と同時に当然原告甲に移転すること、被担保債権が遅滞したときは、原告甲は、エー・ブィ・エスに対し、直ちに右土地の明渡等を求めた上、原則として処分清算の方法により、三年を経過して未了のときは帰属清算の方法により確定的に原告甲の所有に帰属させ、債権の満足を得ることとする旨定められていることが認められ、本件甲土地につき、「権利者の請求又は平成七年八月八日の到来」を条件とする平成二年八月八日譲渡担保を原因として条件付所有権移転仮登記である本件甲仮登記を経由したことは前示のとおりである。

(二) ところで、原告らは、本件甲契約において条件の一つとされている「権利者の請求」は、債権者の意思のみにかかる純粋随意条件であって、被担保債権の債務不履行もその一場合にすぎず、実質的には無条件にほかならないとか、本件甲契約に係る譲渡担保権は、始めから確定的に設定されたものに限りなく近い旨主張し、原告甲代表者小木曽幹夫本人も右主張に沿う供述をする。しかしながら、民法一三四条の趣旨に照らしても、停止条件の成否が、条件によって権利を所得する者(債権者)の意思のみにかかっている場合に、その法律行為を無効とすべき理由はないし、本件甲契約においては、前示のとおり、確定的な所有権の帰属を被担保債権の遅滞にかからせることが約定されているばかりでなく、原告甲の希望により本件甲準消費貸借債務を担保するため本件甲土地に対して抵当権を設定する旨の約定もされているのである。また、本件甲契約に係る譲渡担保権が本件甲準消費貸借に基づく金銭債務を担保する目的で設定された以上、右割賦金を約定どおり弁済しているエー・ブィ・エスが、その遅滞前に原告甲から「請求」を受け、担保強化を意味する本件甲仮登記の本登記手続をするような事態を容認していたとは到底考えられない。他方、原告甲としても、右分割弁済が遅滞なく履行されているのに、一方的に「請求」をして条件を成就させ、右のとおり仮登記の本登記手続を請求することには合理性を見い出し難く、仮登記されたままの条件付譲渡担保権を前提にして与信をしたものというほかはない。エー・ブィ・エスは、本件乙準消費貸借債務を平成三年一二月二八日に完済し、本件甲準消費貸借債務については、平成四年七月二八日までの割賦金は支払ったが、同年八月二八日の割賦金の支払を遅滞した上、同年九月二九日、当庁において破産宣告を受けるに至ったことは前示のとおりであるが、《証拠略》によれば、原告甲は、エー・ブィ・エスが右のとおり債務不履行に陥るまでの間、右「請求」をした事実はないことが認められ、原告甲が、平成五年四月七日、別訴の訴状の送達により本件甲契約に係る譲渡担保権の設定を請求したことは、その自認するところである。

(三) また、原告らは、「五年後の到来」は、権利者の請求という随意条件を五年間行使しないと、被担保債権の消滅時効とは別に譲渡担保権設定請求権そのものが時効消滅(商法五二二条)するところから定型的に定めた始期にすぎず、被担保債権の弁済期やその不履行とは何ら関係がない旨主張するが、右主張のとおりとすれば、時効完成前にあらかじめ時効の利益を放棄することを禁じた民法一四六条に反する無効の約定であるといわざるを得ない。そればかりでなく、本件甲契約の基礎とされた本件甲準消費貸借の最終弁済期が右契約の成立日から「五年後」より早く到来することは明らかであるから、「五年後の到来」という条件も、結局のところ、本件甲準消費貸借上の債務不履行を前提にしていると見るのが自然である。

(四) 以上に検討したところを総合考慮すると、本件甲契約の成立時には、本件甲土地の所有権はエー・ブィ・エスから原告甲に移転しておらず、右所有権はエー・ブィ・エスの原告甲に対する金銭債務の不履行を条件として移転することとして本件甲契約が締結され、これが不動産登記法二条二号の仮登記によって公示されたものと認めるのが相当であるから、本件甲契約は、仮登記担保法にいう仮登記担保契約の実質を有するものというべきである。

5 もっとも、原告甲が破産管財人に対して提起した別訴の別件和解において、破産管財人が、原告甲に対し、本件甲土地につき、本件甲仮登記に基づく本登記手続をすることを認め、原告甲が破産者エー・ブィ・エスに対して有する本件甲準消費貸借に基づく債権は右のとおり本登記される本件甲契約に基づく所有権の被担保債権であることが確認されていることは前示のとおりである。しかし、別訴において、破産管財人が仮登記担保法一五条の類推適用を主張して争った形跡はなく、本件被告らがその当事者とされてもいなかったことは、弁論の全趣旨に照らして明らかである。また、《証拠略》によれば、原告甲は、別訴において、破産管財人に対し、本件甲準消費貸借上の債権につき破産債権の確定も求めていたことが認められるところ、原告甲は、前示のとおり、別件和解においては、破産管財人に対し、右債権は別除権の行使としての本登記手続の請求によって弁済を受けられるものとし、破産債権者としての権利を行使しないことを認めており(第五項)、原告甲としては、破産財団に属することとなった本件各土地の本件各仮登記につき、仮登記担保法一九条一項に基づく別除権の行使をしたことが窺える。

6 そうすると、本件甲契約に係る本件甲仮登記については、国税徴収法五二条の二において準用される仮登記担保法一五条一項の類推適用があり、原告甲は、右仮登記に基づく本登記手続の請求をすることはできず、登記上利害関係を有する被告らに対して承諾請求をすることもできないというべきである。

二  争点2(本件乙<1>ないし<3>各契約及び本件乙仮登記の効力)について

1 本件乙準消費貸借が完済されて消滅したことは前示のとおりであるから、本件乙<1>契約は、被担保債権を欠き、その効力を有しないことが明らかである。

2 エー・ブィ・エスが、平成二年八月八日、原告乙との間で、本件甲準消費貸借債務を担保するため、本件乙土地を重ねて原告乙に譲渡する旨の譲渡担保契約である本件乙<2>契約を締結し、本件乙仮登記を流用して、本件乙<1>契約の被担保債権には本件甲準消費貸借債務も含まれることとする旨合意したか、又は、原告乙が、右同日、原告甲から、本件甲準消費貸借債権を取立目的で譲り受けた上、エー・ブィ・エスとの間で、右債権を担保する目的で、本件乙土地をエー・ブィ・エスから譲り受ける旨の譲渡担保契約である本件乙<3>契約を締結し、前同様に本件乙仮登記を流用する旨合意したと主張する。そして、この主張は、原告乙のエー・ブィ・エスに対する本件乙準消費貸借上の債権を担保するため本件乙土地について経由された本件乙契約に係る本件乙仮登記が被担保債権を欠き無効に帰した後に、右仮登記を、本件甲準消費貸借上の債権を被担保債権とする本件甲契約を公示する仮登記として流用し、被告らに対してその効力を有することを前提にするものである。

しかしながら、流用される本件乙仮登記の原因とされている本件乙契約は、原告乙とエー・ブィ・エス間の譲渡担保契約であり、右仮登記によって公示されるべき本件甲契約は、原告甲とエー・ブィ・エス間の条件付譲渡担保契約であって、当事者及び契約内容を異にし、本件乙土地につき本件甲仮登記の権利移転の附記登記が経由された事実もないのみならず、原告らの主張によれば本件甲契約に基づく平成五年四月七日に条件成就により譲渡担保権が設定され、これにより、流用仮登記によって公示されるべき実体関係が成立したところ、被告らは、これに先立って平成三年八月から平成四年一〇月までの間に本件乙土地につき差押えないし参加差押えの登記をして登記上利害関係を有するに至ったのであるから、このような事実関係の下においては、原告乙において、被告らに対し、流用された本件乙仮登記の効力を主張し得ないものというべきである。

なお、原告ら主張のように、本件乙<2>契約に係る本件乙仮登記の被担保債権が本件甲契約に基づく債権であり、その権利者が原告乙であるとすれば、原告甲から原告乙に対して債権譲渡がされたことが前提にならざるを得ないが、《証拠略》によっても右事実を認めるに足りないし、仮に右譲渡がされたとしても、本件乙仮登記を本登記にするためには本件甲契約に基づくこととなるから、これについても仮登記担保法一五条一項が類推適用される筋合である。また、本件乙<3>契約において、原告甲が原告乙に対し本件甲準消費貸借上の債権を取立目的で譲渡したとしても、取立権の譲渡は、債権の帰属に変動を及ぼすものではないばかりでなく、別件和解において、原告甲と債務者(エー・ブィ・エス)の破産管財人との間で、原告甲が右債権を有することが確認されていることは前示のとおりである。もっとも、原告甲が、破産管財人に対し、原告乙に代位して本件乙仮登記に基づく本登記手続を求める別訴を提起し、別件和解において、破産管財人は、原告乙に対し、本件乙土地につき、本件乙仮登記に基づく本登記手続をすることを認めていることは前示のとおりであるが、この別件和解の存在が右判断を左右するものではないことは、前記説示に照らして明らかである。

第四  結論

以上のとおり、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠原勝美)

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